ライブ配信/アーカイブ配信(2週間、何度でもご視聴可)
【なぜ今フィンランドにVCが注目するのか】
〜進むデジタル立国、ロシアの脅威による防衛産業の隆盛等、
スタートアップのイベントSLUSHからの報告〜
1月16日(木)
在米ジャーナリスト
土方 細秩子(ひじかた さちこ) 氏
北欧フィンランドは国土面積が日本のおよそ9割、そこに560万人の人々が暮らす。国民の教育水準は高く、世界で最もデジタル化が進んだ国としても知られる。さらに国民の幸福度は世界一、国民一人あたりのGDPは5万3000ドルで世界で19位(日本は3万3000ドルで34位)だ。しかし2022年に起きたロシアによるウクライナ侵攻により、国内には大きな変化が起きている。23年にはNATOに加盟、ロシアからの天然ガスに頼っていたエネルギー政策にも大きな変更を余儀なくされた。しかしフィンランドはこのピンチをチャンスに変え、防衛産業を中心に大きく輸出額を増やしている。その影にあるのは国を挙げてスタートアップを推進し、それを支援する整った制度だ。
<1>フィンランドの歴史的背景
スウェーデンやロシアに支配された歴史、1917年の独立という若い国家であること、2度にわたるロシアからの侵略など、現代に続く独立を守ろうとする気概。
<2>SLUSHの概要
10年前から毎年11月に開催される、スタートアップのイベント。主要な目的はスタートアップとVCを結びつけることで、欧州では注目の集まるイベントである。Google、AWS、NVIDIAなども出展し、世界で最もエネルギッシュなイベントとも言われている。
<3>注目されるスタートアップ
CO2からタンパク質を作り出すSolar Foods、レーダー付き小型衛星の打ち上げを行うICEYE、量子コンピュータ量産を行うIQM、VR技術のVarjo、飛行船を使って地上探索を行うKelluu、新素材開発のOnego Bio、サイバーセキュリティのHoxhunt、そして24年にAMDに買収されたSilo AIなど、世界でも注目を集める企業が多数誕生している。
<4>日本からの投資
IQM、ICEYEは日本にも支社を開設予定、Solar Foodsには味の素が出資、IQMにはソフトバンクが出資、またICEYEやKelluuとは東京海上日動が提携を行うなど、日本企業からの出資も目立つ。双日、丸紅などの商社との関係も深まり、村田製作所はヘルシンキ近郊にセンサー製造の工場を開設している。
<5>スタートアップ躍進を可能にする社会制度
フィンランドの教育制度(大学は無償、大学の課題としてスタートアップ立ち上げなどがある)、デジタル化が進む社会などが背景にある。また政府による支援制度が非常に整っている。経済雇用省の傘下に様々な団体があり、基礎技術から応用技術、ビジネスの国際化などあらゆる面を支援。さらにNATO加盟によりNATOの防衛軍事技術支援団体であるDIANAからの資金も受けられるようになった。
<6>日本が学ぶべきこと
フィンランドにはノキアという巨大企業が存在した。一時は携帯電話市場の半分を占めたが、スマートフォンへの切り替えに失敗し減速。フィンランド政府はノキアを救済しなかったが、現在は基地局などB2Bとして復活。一方ノキア縮小に合わせて多くの人材が流出したが、そうした人材がスタートアップを立ち上げるなど産業の裾野が広がった。方向転換の早さ、失敗をすぐに成功のタネにすることなど、大企業は潰さない、という日本の保守的姿勢が産業の転換を阻害する要因になっていないか。
<7>質疑応答
同志社大学、ボストン大学大学院修了。1990-93年 フランスパリにてNHK現地法人で番組制作、93年よりカリフォルニア州ロサンゼルスで同じくNHK現地法人の番組制作、その後97年より雑誌への寄稿に専念し現在に至る。主な寄稿先としてサンデー毎日、エコノミスト、ウェッジ、ソフトバンクIT+ビジネスなど。