リチウムイオン電極の構成、特性と新たなプロセス
〜バインダー、正・負極材への適応、バイポーラーとドライ化〜
■概要■
・電極バインダー、酸化・還元に耐えてご苦労さま、そろそろ..
・LFP→水系塗工、NCM→粉体塗装、全固体→Fiber Fibrillation が本命か?
・ドライプロセスは生産性が普及の鍵
・全固体電池はドライプロセスと相性がよさそう
・全固体電池は原理的にバインダーは不要、だが別の難問があって..
・固体電解質とバイポーラー、掛け算か足し算か、今後に期待..
・連続体電極のリチウム硫黄電池、500Wh/kgレベルは可能か..
本書は現行のリチウムイオン電池の製造、その主要部である電極板の製造過程における、バインダー(接着材、結着材)を中心とした、化学材料とプロセス技術と、その新たな展開を扱う。
1991年にソニー(株)によって創造された“リチウムイオン電池”は、33年後の現在、EVを始めグローバルな、モバイル電源のほぼ全てを担うに至った。しかし2024夏現在、あれほど勢いがあったEVと、EV用電池の生産量が、火が消えた様に低下した。特に欧米においてその状況が著しいが、順調な生産を継続する中国においても、その内容は特に原材料のコスト構成において、劇的な変化が見える。
EVの普及には電池コストが最大の障壁である、これはこの十数年言われ続けて来た。コストは正極材の問題であろうと考えていたが、意外にも正極バインダーであるふっ素ポリマー(PVDF)にも降りかかって来た。
コバルトフリーの鉄リン酸リチウムLFP正極材への、大幅なシフトは、安価な水系バインダーの採用と相まって、PVDFのサプライへの警戒論が出て来た。
元よりバインダーは発電要素はなく、無ければないで済む存在である。同時に使用される溶剤NMPも、リサイクルコストも含めて、コストアップの原因である。
筆者は1991年からバインダーに携わって来たが、上記の様な自己矛盾の意識は常にあった。今後の全固体電池を含む、リチウムイオン電池の更なる進展の為には、(湿式)バインダーを解消して乾式プロセスに移行し、更にはバイポーラー(双極子)電極によって、比容量Wh/(Kg、L)の大幅なアップの可能性を探りたい。
<4、5>で取り上げた、全固体電池とリチウム硫黄電池は、これまでの電解液とは次元の異なるバインダーや、イオン伝導パスと更には、電気伝導路を形成する、困難な課題に突き当たっている。
電解液系バインダーの技術経験が活きる部分、全く役に立たない部分が混在している。明確な回答はないが、情報を整理して提供したい。
今回、特別寄稿をお願いした鈴木孝典氏は、筆者と同じ呉羽化学工業(株)(現 (株)クレハ)の技術系OBで、電池材料とバインダーの開発営業を共に担当した仲でもある。現在はドライプロセス開発の第一人者である。
電池メーカーにとっては、汚れ仕事の湿式バインダーと電極製造は、余り手を出したくない部分である。この辺の問題解決に、化学系OBが多少なりとも、お役に立てばと、データを集め解説を試みた。
なお個々のメーカーの技術ノウハウにわたる部分もあり、多少歯切れの悪い点はご容赦願いたい。
■調査・執筆■
菅原 秀一
■特別寄稿■
鈴木 孝典
<1>(基礎)電解液系リチウムイオン電池の電極バインダー
1.バインダーの役割と求められる特性(1)セルの構成、接着と結着
・リチウムイオン電池の特徴、1991〜
・電極の断面図
・バインダーによる活物質の接着・結着状態
・PVDFバインダーの接着強度、負極炭素/銅箔 など
2.バインダーの役割と求められる特性(2)湿式プロセスにおける塗工工程
・極板の塗工パターン(正負、両面)
・電極板の断面と塗工欠陥
・PVDFの溶解性と膨潤度
・溶剤とポリマーのSP、相互溶解関係 など
3.電気化学的な環境、充放電と酸化・還元
・電解液中の電位分布 φ(x)
・バインダーに対する物理・化学的な作用
・PVDFの酸化、還元(分子軌道計算)
・電解液のHOMO、LUMOと電極電位 など
4.正極材の種類とバインダー、溶剤系vs.水系
・電池製造とバインダー、技術情報
・正・負極電極のバインダー、選択と集中
・正極材の選択と電極バインダーの選定
・電極バインダーの現状と展開、2022〜 など
5.負極材の種類とバインダー、溶剤系vs.水系
・水系バインダーとしてのポリマーラテックス
・正極材の真比重と電極密度
・バインダーポリマーの融点(乾燥後)
・ポリマーラテックスの製造 など
<2>(応用)電解液系リチウムイオン電池の電極バインダー
1.バインダーに関する直近12ヶ月の開発動向
・バインダー、直近12ヶ月の企業動向
・電極バインダーに関する動向、〜2023
・電極バインダーの現状と展開、2022〜
・セルの材料、部材の構成例(20Ah、74Wh) 重量%
2.正極材の二極分化と選択、LFPとNMC三元系
・正極材の選定と特性、NMC811とLFP
・コバルトフリー正極材の比較(Ah)
・製品セルの比容量、LFP、LFMPとNMC
・コバルトフリー正極材の比較(データ) など
3.負極材の多様化とバインダーの選択、炭素系とシリコン系
・炭素系とバリエーション
・LTOとNTO系
・SiO系(1)2019年代の開発
・SiO系(2)実用化ステップ など
4.フッ素系バインダーとフッ素系ケミカルの環境問題
・PVDFバインダーに関する動向、〜2021
・PVDFメーカーの製品と増産計画
・PVDFの原料(モノマー)のサプライ・チェーン
・正極のバインダーとNMPの使用量、NMC811 など
<3>(展開)バインダーレス、ドライプロセスとバイポーラー
1.バインダーレスの電極板製造
・究極はバインダーレスの電極板
・湿式塗工した電極板の不良、ボイドと残溜歪
・電極板の断面と塗工欠陥
・電極板の塗工>乾燥における相対効率モデル など
2.ドライプロセスによる電極板製造
・乾式プロセスへの取り組、2022-23
・欧州のドライプロセス開発
・特許国際分類IPC、ドライ電極製造
・ドライ電極製造、マクスウエル社特許 など
3.バイポーラー(双極子)セル
・電池(セル)の基本構成
・単極子セルの電極構造
・双極子(バイポーラー)型リチウムイオン電池(セル)
・双極子(バイポーラー)セルの構成 など
<4>(転換)全固体リチウムイオン電池とイオン伝導パスの形成
1.直近12ヶ月の各社の開発動向
・全固体電池に関する、直近12ヶ月の情報
・全固体電池への参入企業(パターン)
・全固体電池の開発(1)自動車メーカー
・全固体電池の開発(2)既存電池メーカー など
2-1.固体電解質、硫化物系と酸化物系(その1)
・液系電解液(質)から全固体電解質
・何故に “ 全固体電池 ”か
・酸化物系全固体電池の開発、2022-23
・硫化物系全固体電池の開発、2022-23 など
2-2.固体電解質、硫化物系と酸化物系(その2)
・主な固体電解質の化学式と特性、2024
・固体電解質の特性と化学式量
・ハイドライド系固体電解質
・LLZーMg、Sr 日本特殊陶業(株) など
3.全固体セルの構成、イオン伝導系と電子伝導系
・固体電解質と正極材との界面形成
・固体電解質と負極材との界面形成
・液体電解質リチウムイオン電池の構成
・NEDOの全固体電池ロードマップ など
4.正・負極材の電気伝導とイオン伝導
・正極材の電気伝導率(mS/cm)
・正・負極材の電導度(S/cm)
・正・負極材のLi+拡散係数(cm2/sec)
・S/cm vs.DLi+cm2/sec など
5.半固体と全固体セル
・半固体電解質電池の開発、2022-23
・バインダーレスの“クレイ型”電池、京セラ(株)
・APB(株)、三洋化成工業(株)のAPB
6.正極材の表面変性、固体電解質対応(東北大ほか)
・東北大学の研究成果紹介
・正極材表面のコーティング、特許例
・全固体セルの界面関係参考文献、2024国内
・液体電解質と固体電解質の併用、研究例紹介
7.液体電解質 vs.固体電解質、 メリット&デメリット
・電解質(固体、液体)と比較物質の特性(グラフ)
・電解質(固体、液体)と比較物質の特性(データ)
・Li+の電気量。FaradayとCoulomb
・全固体電池燃えない、電解液燃える!? など
8.(資料)硫化物系固体電解質セルのバインダー
・硫化物系全固体セルのバインダー事例(1)、2019トヨタ特許公開
・硫化物系全固体セルのバインダー事例(2)、2024トヨタ特許公開
・硫化物系全固体セルのバインダー事例、2019トヨタ特許出願
・溶剤MIBKの特性と法規制
<5>(異変)リチウム硫黄電池とプラダイムシフト
1.非遷移元素の正極と負極の組合せ
・S8硫黄正極材とリチウムメタル負極(Ahグラフ)
・正極材の化学式、理論容量と実用容量
・各種負極材の理論容量
・硫黄 Sulfur の基本物性 など
2.バインダーレスの電極構成
・(リチウム・硫黄/LiSu)研究の動向、液体系と固体系
・バイポーラー全固体LiSuセル、正・負極の構成
・LiSu固体電解質系電池の構成(1)
・LiSu電解液系電池の構成(2) など
3.目標レベルと可能性
・硫黄系正極セル GSyuasa
・GSユアサ(株)のリチウム・硫黄電池
・各社の試作リチウム硫黄電池(GSyuasa、SSB、Factrial)
・5V系正極と硫黄系正極材のコスト試算、(Ah,Wh) など
4.非水溶媒による正・負電極の作製
・液体アンモニア溶液による(リチウム/硫黄)正極の作成プロセス
・液体アンモニア溶液による(リチウムメタル)負極の作成プロセス
・液体アンモニアに対するリチウムと硫黄の溶解(グラフ)
・液体アンモニアに対するリチウムと硫黄の溶解(データ) など
5.参考資料 国内の研究動向
・62th電池討論会、LiSu
・64th(2023)電池討論会、研究分野
・64th電池討論会、リチウムメタル負極
・論文紹介、S.Seki(工学院大学)
<6>(改革)電極板製造のドライ化と生産性向上
1.現行プロセス(ウエットプロセス)
・ウエットプロセスの利点
・ウエットプロセスの問題点
・ドライプロセスのメリット
2.ドライプロセスの種類
・Polymer Fibrillation
・Dry Spraying Deposition
・Vapor Deposition
・Hot Melting and Extrusion など
3.ドライプロセスの現状
・テスラ4680電池の電極
・日産自動車の全固体電池
・フォルクスワーゲン(VW)のドライプロセス
・日本ゼオンのドライプロセス など
4.ドライプロセスとバインダー
・PTFE
・粉体塗装用バインダー
5.ドライプロセスの生産性
6.おわりに
<7>まとめ
1.今後の高性能化、10Ahレベルのセル
2.リチウムイオン・セルの特性向上、Ragone Plot
3.ドライプロセス化のコストダウン効果