核酸医薬・mRNA医薬の製造分析の基礎と基盤技術開発
■ポイント■
・新規な創薬モダリティとして注目の核酸医薬とmRNA医薬に焦点!
・その製造・分析法と研究開発の核となる基盤技術を網羅!
・核酸医薬とmRNA医薬それぞれの概論を紹介したのち、それぞれの製造法ならびに分析法を詳述!
・基盤技術開発に関する最新の研究成果、市場概況や製造支援の状況についても幅広く紹介!
・当該分野の第一人者、小比賀聡先生、井上貴雄先生によるご監修!
■概要■
核酸医薬は、核酸あるいは修飾核酸が十数〜数十塩基連結したオリゴ核酸で構成され、タンパク質に翻訳されることなく直接生体に作用するもので、化学合成により製造される医薬品であると言われている。
2022年12月時点において、日米欧合わせて16品目の核酸医薬が承認されており、従来の低分子医薬や抗体医薬では治療が困難であった希少疾患や難治性疾患に対する新たな治療薬として確固たる地位を築きつつある。一言で核酸医薬といっても、そこには構造や作用機序が異なる様々な種類が存在する。例えば一本鎖核酸であるアンチセンス核酸は、疾病の原因となる遺伝子のmRNAやpre-mRNAに配列特異的に結合し薬効を発揮する。翻訳過程を阻害して疾病を引き起こすタンパク質の生成を阻害するのみならず、配列設計や化学修飾の仕方を調節することで、スプライシング過程を制御することも可能である。siRNAは二本鎖のRNAより構成されており、RISCと呼ばれるRNA-タンパク質複合体を介して標的となるmRNAを切断し翻訳過程を阻害する。また核酸アプタマーは、その立体構造により標的分子を厳密に認識するため、核酸で作られた抗体様分子ともいわれている。このように、核酸医薬の種類は多岐にわたるが、いずれも化学合成により製造されるという点は共通である。
一方、mRNA医薬はその名の通り、標的タンパク質の遺伝情報をコードしたmRNAを治療薬あるいは予防薬として用いるものである。薬効を示すのはmRNAそのものではなく、投与したmRNAから翻訳されるタンパク質であるという点が核酸医薬とは異なっている。また、核酸医薬はその鎖長が十数から数十塩基程度であり化学合成によって製造することが可能であるが、mRNAは数百塩基から数千塩基と鎖長が長く一般的には化学合成ではなく酵素反応を利用したinvitro転写系により合成される。mRNA医薬のうち、抗原タンパク質を発現させることでその抗原に対する免疫を誘導するものがmRNAワクチンである。新型コロナウイルス感染症に対するmRNAワクチンが驚異的なスピードで開発され全世界で利用されるようになったことで、mRNAワクチンを含むmRNA医薬に対する期待は大いに高まっている。感染症に対するmRNAワクチンの他にもがんやその他の難治性疾患に対するmRNA医薬に関する研究開発が世界中で進められており、約100品目もの候補品が臨床試験段階にある。
核酸医薬とmRNA医薬は、その作用メカニズムや鎖長、製造法などは異なるものの、用いられている技術には共通する点も多い。例えば、核酸医薬もmRNA医薬も生体内での安定性や細胞内への移行性が課題となる。そのため、いずれにおいても、適切な化学修飾や人工核酸技術、標的臓器や細胞へ移行させるためのデリバリー技術の利用が必要不可欠となっている。こうした核酸医薬及びmRNA医薬の実用化を支える共通の技術については、これまで長く研究されてきた核酸医薬やその基盤を築く核酸化学、DDS研究の成果を、mRNA医薬にも利用することが可能である。また、両者の分析法についても共通した考え方や技術が用いられている。
本書では、<1>から<3>では「核酸医薬」を、<4>から<6>では「mRNA医薬」を取り上げ、それぞれの領域の第一線で研究開発を牽引する産官学の先生方に執筆いただいた。「核酸医薬」、「mRNA医薬」ともに、概論を紹介したのちに、それぞれの製造法並びに分析法を詳細にまとめている。さらに、人工核酸技術や配列設計法、デリバリー手法などの基盤技術開発に関する最新の研究成果を幅広く紹介した。
また、本書の最後には核酸医薬・mRNA医薬の市場概況や製造支援の状況についても触れている。本書が核酸医薬及びmRNA医薬の共通点と相違点、そして現在の技術開発動向を理解し、今後の研究の方向性を考える上で読者の皆様の一助になれば幸いである。
最後に、ご多忙のところ貴重な時間を割き執筆いただいた先生方に心より感謝申し上げたい。
<序論 核酸医薬とmRNA医薬─RNAレベルでの生体制御─>
<1>核酸医薬概論(核酸医薬とは)
1.核酸医薬概論
・核酸医薬の基本構造と作用機序
・核酸医薬の体内動態とデリバリー技術
2.核酸医薬品のCMC概論
・オリゴヌクレオチドの製造
・オリゴヌクレオチドの分析
・オリゴヌクレオチドの製剤
・核酸医薬品の品質に関する規制整備の現状
<2>核酸医薬の製造と分析
1.オリゴ核酸の工業的生産と次世代の長鎖RNA生産
・オリゴ核酸の工業的生産
・酵素ライゲーションによる長鎖RNAの作製
・微生物による長鎖RNAの発酵生産
2.オリゴ核酸のバッチ式固相合成によるスケールアップ化
・オリゴヌクレオチドの固相合成
・バッチ式固相合成法の弊社の取り組み
3.オリゴ核酸合成用担体NittoPhaseTM HLの開発とそれを用いたオリゴ核酸の大量合成
・核酸合成能におけるNPHLとCPGの比較
・NPHLを用いたオリゴ核酸の大量合成における製造パラメーターの最適化
4.MALDI-MSによるアンチセンス核酸の検出と構造解析
・MALDI法とは
・核酸測定に用いられるMALDIマトリックス
・MALDI-TOF MSによるモデル核酸医薬品の検出
・オリゴ核酸の配列確認法
・MALDI-ISDの原理とオリゴ核酸イオンの開裂
・MALDI-ISDによるモデル核酸医薬品の配列確認
・まとめ
5.LC-MS/MSを用いたオリゴ核酸分析法の原理とその実例
・LC-MS/MS systemの概要および測定法
・定性分析法および分析例
・定量分析法および分析例
・Acoustic Ejection Mass Spectrometry(AEMS)を用いた高速分析
6.高分解能LC-MSによるオリゴ核酸の特性解析
・オリゴ核酸分析におけるLC-MSの有用性
・IPRP-LC-MSにより明らかにできるオリゴ核酸の特性
・オリゴ核酸医薬品不純物の相対定量
・まとめ
7.オリゴ核酸の2D-LC/MSの概要と分析事例
・2D-LCの概要と分離モード
・2D-LC/MSを使用したオリゴ核酸分析事例
・まとめ
8.イオンモビリティー分離の原理と核酸医薬品への応用
・核酸医薬品の分離分析
・イオンモビリティー分離
・核酸医薬品のイオンモビリティー分離の応用例
<3>核酸医薬の基盤技術開発
1.アンチジーン核酸医薬を志向した
非天然型3本鎖DNA形成を可能とする人工核酸の開発
・3本鎖DNA形成とアンチジーン核酸の作用メカニズム
・3本鎖DNA形成の問題点と解決法
・人工核酸(シュードシチジン誘導体)の分子設計と機能評価
・アンチジーン核酸としての機能検討
・まとめと今後の展望
2.4′-チオ核酸によるセントラルドグマへの挑戦
・DNAを鋳型とした4′-チオDNAの複製
・4′-チオDNAから4′-チオRNAへの転写
・4′-チオRNAからタンパク質への翻訳
・4′-チオDNA→4′-チオRNA→タンパク質の連続的遺伝子発現反応
3.オフターゲット効果を回避するsiRNA医薬の分子設計
・siRNAによる遺伝子発現制御機構
・siRNAによるオフターゲット効果とそれを回避する分子設計
4.核酸やドラッグデリバリーシステムに対する免疫活性化の基礎と応用
・ドラッグデリバリーシステムによる核酸の体内・細胞内動態制御
・核酸やドラッグデリバリーシステムに対する自然免疫応答
・核酸やドラッグデリバリーシステムに対する獲得免疫応答
・核酸やドラッグデリバリーシステムに対する免疫応答の回避
5.エクソソーム改変技術によるドラッグデリバリーシステムの開発と核酸医薬品への応用
・エクソソームとは
・エクソソームの取り込み
・エクソソームの体内動態
・デリバリーのキャリアとしてのエクソソーム
・組織特異的な送達を目指したエクソソームDDSの開発
・エクソソームの臨床応用
<4>mRNA医薬概論(mRNA医薬とは)
1.mRNA医薬概論:mRNAをクスリとして用いる
・mRNA創薬:その開発経緯
・mRNA創薬における3要素
2.mRNA医薬の製造概論
・mRNA原薬の製造
・ドラッグデリバリーシステム(DDS)
・次世代型mRNA医薬
・今後の課題
<5>mRNA医薬の製造と分析
1.mRNA医薬の製造:タカラバイオが提供するソリューション
・竜嗣
・mRNA製造プロセス
・品質試験
・タカラバイオのmRNA医薬製造に対するソリューションの提供
2.mRNA医薬の開発製造受託事業の立ち上げ
・再生医療や創薬研究におけるmRNA応用
・日本でのmRNA製造拠点立ち上げとmRNAの設計、製造における課題と対応
・mRNA医薬品への期待
3.mRNA医薬の製造・分析技術
・mRNAの構造と分子設計
・mRNA原薬の製造と品質管理
・CDMOとしての役割
4.mRNA医薬の製剤化
・mRNA医薬の製剤設計
・脂質ナノ粒子のプロセス設計
5.高分解能LC-MSによるmRNA配列解析
・mRNA配列解析の難しさ
・LC-MSによる配列解析に適したmRNA消化
・消化されたmRNA断片の同定と配列解析
・LC-MSによるmRNA配列解析の拡張性
・まとめ
6.mRNA医薬の分析
・mRNA医薬
・5′キャップ構造の分析
・ポリA配列の分析
・まとめ
<6>mRNA医薬の基盤技術開発
1.mRNAを医薬品として用いるための基盤技術
・mRNAの高機能化
・mRNAデリバリー
・mRNAの治療応用
2.脂質ナノ粒子を基盤とするmRNA医薬の開発
・DDSの観点から見たmRNA創薬のメリット
・mRNAを搭載したLNPを形成する脂質材料の設計
・国産の脂質様材料としてのssPalmの開発
・ApoEを介した標的化・臓器標的化
・今後の展望
3.mRNA医薬品のドラッグデリバリーを可能にする化学修飾技術の開発と製剤化
・mRNA医薬品の基礎
・化学修飾技術
・DDS技術
4.mRNA医薬の技術動向
・mRNAとは何か
・ワクチンの歴史
・ワクチンとは何か
・mRNAワクチンの原理
・mRNAワクチン開発の歴史
・mRNAワクチンとCap構造
・新型コロナウイルスの流行とmRNAワクチン
・新型コロナウイルスの変異株とmRNAワクチン
・mRNAワクチンからmRNA医薬品への展開
・まとめ
5.翻訳効率最大化のためのmRNA分子設計
・終止コドンを除いた環状mRNAの翻訳活性と生体内安定性の向上
・位置特異的なホスホロチオエート修飾の導入による翻訳活性向上
・化学的キャップ化反応を用いたmRNAの完全化学合成
<7>核酸医薬・mRNA医薬の市場動向
1.核酸医薬・mRNA医薬の市場トレンド
・核酸医薬
・mRNA医薬
2.核酸医薬・mRNA医薬における製造支援サービス
・概要
・主要各社の動向と今後の展望
■監修■
小比賀 聡
大阪大学大学院薬学研究科 教授
井上 貴雄
国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部 部長