資源・エネルギー問題/エネルギー危機管理白書2023年版
資源やエネルギーの生産、輸送、消費はすべて環境に影響を及ぼすことから、エネルギー産業が環境に与える影響は大きく、エネルギーと天然資源の消費、エネルギーと社会生活とは密接に関係している。
エネルギーは、「3つのE(エネルギーの安定供給、経済効率の向上、環境への適合)+S(安全性)」を満たすこと、そして、さまざまなエネルギーを組み合わせて系列化・分散化・最適化を果たしていくことになる。
ゼロカーボン社会への移行により、化石燃料施設は将来的に存続できなくなると予想されるなかで、企業や投資家は資源とエネルギーに関するリスク資産の保有に関する情報を把握しておく必要に迫られている。不安定な燃料供給に依存し続けるのか、それともこの機会に効率的で断熱性・換気性に優れたインフラを構築し、分散型再生可能エネルギーで電力システムを強化するのか。そのバランスを考える必要がある。
化石燃料などの資源が使用できなくなった場合、世界中に大量の遊休資産が発生し、座礁資産が発生する可能性がある。しかし一方で、脱炭素化はそれをはるかに超える潜在的なリスクであり、リスクの抑制と脱炭素化のコスト増大とのバランスを見ていく必要がある。
欧州では、逼迫した供給、ロックダウン後の需要の急増、ウクライナ戦争の影響で、エネルギー価格が高騰している。ドイツとロシアを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」プロジェクトも巨大な座礁資産と化している。
日本では、従来から燃料費によるコスト負担が大きい運輸業や製造業の企業では、企業業績を押し下げている。不足分を節電や節約で補う一方で、原油やLNGの価格高騰の影響を販売価格に転嫁する企業が増え、他業種にも問題が波及している。しかし、中小企業では、4社に1社が具体的な対応策をとっていない。
こうした資源・エネルギーリスクの増大は、クリーンエネルギーを見直す重要な機会である。エネルギー価格の負担増を考慮し、燃料供給の管理強化と同時にエネルギーに関わるレジリエンスと危機回避の方法を考えなければならない。
その他にも、下記の諸問題で、世界の資源・エネルギー状況は、混沌の度合いを増している。
・エネルギー安全保障の新局面
・エネルギー備蓄問題
・再生可能エネルギーの効率性問題
・再生可能エネルギー普及と出力抑制問題
・再生可能エネルギーの設備容量・調達
・再生可能エネルギー付加価値、投資、収益率の競争をめぐる攻防
・水素資源獲得競争
・リチウム/ニッケル/電池価格の混乱・高騰
・鉱物資源の調達リスク増大
・鉱物資源/レアメタルの安全保障・再利用問題
・EV市場の爆発的な拡大と電池の軍拡競争
・カーボンニュートラル実現を前提とした新電源への投資
・その他
本報告書では、こうした状況認識にたち、資源・エネルギー問題のレジリエンス、危機管理、エネルギー・セキュリティ、主要セクター別動向等に関する主要テーマを網羅して分析・解説している。
<1>資源・エネルギー政策および経済の変容/サーキュラー・エコノミー
1.気候変動とエネルギー不足の同時多発による危機の深刻化
2.エネルギー経済の変容と経済危機の拡大
3.激化する世界のエネルギー戦争
4.エネルギー/燃料に関する分野別市場調査
5.エネルギー産業の進化・発展
6.サーキュラー・エコノミー(循環型経済)/インダストリアルエコロジーの進化・発展
7.エネルギー・サステイナビリティ
8.エネルギー利用の効率化
9.エネルギー使用量の最小化・ミニマム化
10.ライフサイクル全体を通じた環境活動
11.高効率火力発電/石炭ガス化複合発電(IGCC)
12.関連団体
13.再生可能エネルギーの進化・発展
14.国別動向
<2>資源・エネルギー市場を巡る状況/エネルギー市場の変容
1.概況
2.困難を伴う化石燃料依存症からの脱却
3.自由化と規制
4.燃料源のコスト競争力
5.再生可能エネルギーへの移行
6.地域別エネルギー市場動向
<3>ロシアのウクライナ侵攻・経済制裁とエネルギー問題の深化
1.概説
2.ロシアのウクライナ侵攻・経済制裁とエネルギー問題の深化
3.メルケル首相の告白 「ミンスク協定は対露戦争に火をつけるための罠だった」
4.欧州のエネルギー危機
5.ロシアに対する経済制裁/ロシアとの長期的な経済対立
6.欧州の産業・工場に打撃を与えるロシアとの経済摩擦
7.欧米の投資家に対し、戦略的事業の株式売却を禁止したロシア
8.EUがロシアのエネルギー束縛から解放するための代償
9.ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格高騰、世界経済への影響
10.緩和への取り組み
11.エネルギー危機管理
<4>エネルギーと食糧の同時インフレ/グリーンフレックス
1.概況・近況
2.インフレ傾向とエネルギーショックの同時進行
3.世界的インフレに対するアナリストの見方
4.インフレ率の低下期待に向けたセクター別動向
5.仮想PPA(電力売買契約)の活用
6.電力卸価格変動保険
7.広がる「グリーンフレックス」
<5>エネルギーの供給不全/電力需給の逼迫
1.エネルギーの供給不全と対応状況
2.エネルギーの需要破壊と対応状況
3.電力需給のひっ迫
4.電力需給を安定化させる「需給調整市場」と一次調整電力の広域調達
5.混乱が続く世界の天然ガス・液化天然ガス(LNG)市場
6.液化天然ガス(LNG)などの燃料の調達合戦
7.強まる電力需給の逼迫懸念
8.エネルギー価格の高騰を一時的に緩和するヘッジ手段
9.停電リスクの増大
10.停電時のBCP対策
11.節電リスク・停電の脅威が常態化する日本
12.原子力発電への回帰
13.電力セクターのロードマップ/トランジション・ファイナンスのモデル
14.世界的な水素資源獲得競争
15.再生可能エネルギー普及と出力抑制問題
16.燃料・設備のコスト上昇、金利の上昇に直面する鉱山業界
17.リチウム/ニッケル/電池価格の混乱・高騰
<6>資源・エネルギー投資動向
1.概況
2.欧州の電力市場と現在の市場設計・投資家への影響
3.エネルギー企業の株式市場・IPO動向
4.自然エネルギーへの投資で注目されるのは大手石油会社
5.化石燃料の増産投資
6.価格高騰で活発化する投資適格の信用格付
7.供給逼迫による大口投資家における石油・ガスのアップサイド再考の動き
8.石油・ガスに注力するプライベート・エクイティ・ファーム
9.カーボンニュートラル実現を前提とした新電源への投資
10.機関投資家・大口投資家の動向
<7>地域別・国別状況
1.概況・近況
2.欧州のエネルギー危機
3.米国の状況
4.中東産油国の状況
5.アジア太平洋地域
6.日本の状況
7.FIP制度で変わる運用制度
8.エネルギー市場の不安定さとネットゼロ投資が意味するもの
9.途上国の脱石炭開発のための支援枠組み
10.EU加盟国の動向
11.グリーンバックラッシュ
12.資源・エネルギー分野での国際協力
<8>クリーンエネルギーへの移行と化石燃料の変動
1.天候不順に見舞われる再生可能エネルギー発電量
2.縮小する再生エネルギー燃料と天然ガス系燃料との価格差
3.自由化と脱炭素化はボラティリティを招く
<9>エネルギー安全保障
1.概説
2.エネルギーの自立とエネルギー安全保障
3.エネルギー市場と地政学的リスク
4.欧州のエネルギー安全保障の高いコスト
5.日本のエネルギー安全保障・自給率向上
6.エネルギー安全保障を補強する再生可能エネルギー/クリーンエネルギー
7.経済制裁の影響/原産地不明・不透明な市場の形成
8.重要インフラ/エネルギー業界におけるサイバー攻撃の増加
9.国際仲裁/交渉による紛争解決
10.発電
11.輸送
12.資源・エネルギーのグローバルサプライチェーン再編成・再構築問題
13.関連団体
<10>資源安全保障
1.概説
2.“資源の軍拡競争”をめぐる動向
3.鉱物資源/レアメタルの安全保障・再利用
4.鉱物資源の調達リスク増大
5.リチウム危機の拡大と動向
6.レアメタル再利用
7.EV用電池用材料の需要増とニッケル価格の高騰
8.AI/データマイニングによる鉱物の探索
<11>エネルギー備蓄
1.エネルギー備蓄とエネルギー大国の関係
2.世界戦略石油備蓄(GSPR)
3.国際エネルギー機関備蓄
4.前方商業的貯蔵協定
5.国際エネルギー機関(IEA) 放出量を発表
6.緊急時石油共有協定
<12>エネルギー法
1.概説
2.国別状況
<13>化石燃料の動向
1.概況
2.政府の措置の焦点
3.海底油田・海底ガス田の開発
4.カーボンニュートラルなLNG
5.建築物のエネルギー性能、メタン、ガスに関する欧州委員会の提案
<14>石油産業が環境に与える影響と緩和策
1.概要
2.有毒化合物の問題
3.地球規模での影響
4.局所的・地域的な影響
5.緩和策
<15>石炭エネルギー/石炭火力発電所が環境に与える影響と緩和策
1.概説
2.石炭の段階的廃止
3.経済性
4.設計
5.炭火力発電と天然ガス火力発電の技術要素を集約した「BAT基準表」
6.ガスタービン、蒸気タービン、燃料電池を組み合わせた第3世代の火力発電
7.「トリプルコンバインドサイクル」
<16>再生可能エネルギー/クリーンエネルギーの推進
1.危機の下で急速に拡大する再生可能エネルギー
2.電力の環境価値
3.再生可能エネルギーの課題
4.再生可能エネルギー需給調整サービス
5.太陽光発電の技術デューデリジェンスサービス
6.ロシアの化石燃料の代替を目的に緩やかなグリーン基準の検討するEU
7.風力発電計画を強化する北海のEU諸国(デンマーク、ドイツ、ベルギー、オランダ)
8.持続可能な航空燃料(SAF)の導入推進
9.サウジアラビア 石油輸出国からクリーンエネルギーの最大生産国への挑戦
10.学術研究活動
<17>再生可能エネルギーの効率性問題・設備容量・調達状況
1.再生可能エネルギーの効率性問題
2.企業の再生可能エネルギー調達が活発化する欧州
3.課題・障壁
<18>再生可能エネルギー付加価値、投資、収益率の競争をめぐる攻防
1.概況・近況
2.費用対効果の高いネット・ゼロ・エネルギー・システム
3.長時間エネルギー貯蔵(LDES)
4.再生可能エネルギーと付加価値
<19>再生可能エネルギー/脱炭素の国際協調・連携
1.概説
2.国境を越えて再生可能電力を分配するグローバルなネットワークの構築
3.中央・東ヨーロッパ諸国における炭素回収・貯留(CCS)の展開・協調の重要性
<20>REPowerEU
1.概説
2.EU諸国内に潜む深い溝
3.新たなガス輸入インフラの構築とエネルギー自立の模索
4.REPowerEUと市場再設計の重要性
5.EUのクリーンエネルギー目標を引き上げる提案
<21>主要セクター別動向
1.エネルギーセクター
2.電力セクターの動向
3.商社
4.フレアリング、ガス抜き、ガス漏れ防止に関する対策
5.メタン排出枠税(CBAM)とフレアリング
<22>地域別・国別状況
1.米国
2.中国
3.日本
4.英国
5.ドイツ
6.中南米
7.エジプト