■ポイント■
・早期診断、高度治療、健康寿命の延伸、創薬ターゲットの探索など、医療工学を取り巻く環境は今後ますます高度化!
・医用機器・バイオマテリアル・創薬科学について最新の研究動向を詳述!
・医工連携によるイノベーション創出を目指す研究者・技術者の方々にお薦めの1冊!
■概要■
近年、新型コロナウイルス(COVID-19)等の新興感染症の出現に伴い、早期の診断および治療が求められ、またiPS細胞による再生医療の臨床応用が世界的に進められており、先導的な医療を可能とする科学技術の高度化と社会展開が活発に行われている。このような背景のもと、世界の医療産業の市場は2024年には市場規模が約5,422億1,000万米ドルに達し、2032年までに年平均成長率(CAGR)6.3%の成長率が見込まれており、2032年までに8,868億米ドルに達するものと予想されている。
一方、日本のみならず世界の高齢化は急速に進展すると予測され、世界の総人口に占める65歳以上の割合が2024年に約10%(日本:29%)に達し、2040年には15%以上(日本:35%)となることが見込まれており、「健康な社会生活へのシフト」や「高齢者を対象とする医療サービスの充実」とともに、「医療技術のさらなる発展」も求められている。今後、特に医療および健康に関わる情報機器や医用ロボティクス、バイオマテリアル、創薬科学の分野での革新が必要とされている。
本書では、今後求められる医療および健康科学の領域における医用機器およびバイオマテリアル、創薬科学の発展を見据え、第一編では近未来の医療工学を先導する検査・計測やロボティクスなどの医療デバイス・医用機器について、第二編では高度な治療および臓器科学に不可欠なバイオマテリアルと材料応用のための先端研究に関して、第三編では先進的な核酸化学、ケミカルバイオロジー、低分子医薬などの化学と生物に基づく創薬科学に関して、各領域にて活躍されている第一線の研究者に最新の研究と世界の動向を概説していただき、関連する技術の発展の一助になることを願うものである。
【第1編:バイオデバイスおよび医用機器】
<1>血液由来の呼気・皮膚ガス成分の高感度バイオ計測&イメージング
1.はじめに
2.酵素反応を用いたガス成分の計測方法
3.光ファイバー型バイオ蛍光式ガスセンサ「バイオスニファ」
・アルコール脱水素酵素の触媒反応(酸化・還元)を用いたバイオスニファ
・二級アルコール脱水素酵素の触媒反応(酸化・還元)を用いたバイオスニファ
4.バイオ蛍光法に基づくガスイメージング装置「探嗅カメラ」
・アルコール脱水素酵素を用いた探嗅カメラ
・探嗅カメラによる経皮ガスイメージング
5.ウェアラブル型経皮ガスセンサ
6.おわりに
<2>空気圧の直接駆動を用いた低侵襲な外科手術を支援するロボット
1.はじめに
2.把持力提示機能を有する手術ロボット
3.遠隔手術実験
4.一部手技の自動化
5.おわりに
<3>可変剛性材料の構造デザインと臓器把持デバイスへの応用
1.はじめに
2.可変剛性構造材料の原理
3.梁材の形状最適化
4.可変剛性構造材料の医用デバイスへの実装
5.まとめ
<4>血液ポンプと人工心臓
1.はじめに
2.分類
3.動圧浮上型ポンプ
4.磁気浮上型ポンプ
5.磁気浮上型ポンプの多機能化技術
6.おわりに
<5>体内埋込型ドラッグデリバリーデバイス
1.はじめに
2.後眼部疾患用ドラッグデリバリーデバイス
・カプセル型デバイス
・シート型デバイス
・網膜下への細胞デリバリーシステム
3.口腔粘膜疾患用ドラッグデリバリーデバイス
4.おわりに
<6>微細加工技術を用いた低侵襲医療機器の高機能化・多機能化
1.はじめに
2.高機能化・多機能化が求められる背景と制約
3.高機能化・多機能化の試み
・運動機構
・センサと小型部品
4.一括作製技術
・フォトファブリケーション
・微小部品の実装と非平面基板
・積層技術と実装技術の組み合わせ
5.おわりに
<7>マイクロデバイスによる心筋メカノバイオロジーの探求
1.はじめに
2.心拍の位相
3.伸展刺激システム
・システム構成
・細胞培養部
・自律拍動の検出と応答
4.順位相伸展刺激によるメカノストレス応答評価
5.逆位相伸展刺激による異常拍動の誘発
6.結言
<8>人工視覚
1.はじめに
2.人工視覚の原理
3.人工網膜
4. 人工視覚の研究・開発動向
・網膜刺激型
・脳刺激型
5.今後の展望
<9>医療・健康科学のための窩腔デバイス
1.はじめに
2.窩腔でのヘルスモニタリング
3.眼窩デバイス
・グルコース測定用バイオセンサ
・コンタクトレンズ型涙液グルコースセンサ
4.口腔デバイス
・マウスガード型唾液グルコースセンサ
・マウスガード型口腔温センサ
・マウスガード型唾液濁度センサ
5.おわりに
【第2編:医療工学のための生体材料】
<1>ボロン酸科学による診断・治療技術
1.はじめに
2.シアル酸認識によるがん診断や治療治療
3.ボロン酸ゲルを応用した完全合成型人工すい臓デバイス
4.最近の注目すべき事例について
5.おわりに
<2>自己集合性デザイナータンパク質が拓くバイオマテリアル
1.はじめに
2.エラスチンおよびエラスチン類似ポリペプチド
3.ナノファイバー形成能を持つエラスチン類似ポリペプチド
4.おわりに
<3>先進医療用セラミックス
1.はじめに
2.次世代骨修復用リン酸カルシウム系材料
・カルボン酸含有OCPの合成と結晶学的性質
・カルボン酸含有OCPのバイオメディカル応用
3.チタン表面への光触媒抗菌性TiO2層の形成
・チタン表面への窒素ドープTiO2層の形成
・チタン表面への銅ドープTiO2層の形成
4.がん治療に貢献するセラミックス
・磁気温熱療法用セラミックス
・放射線療法用セラミックス
5.おわりに
<4>新規歯科治療用セラミクス
1.緒言
2.結晶成長制御によるチタニアナノ粒子の高機能化
・緒言
・材料と方法
・結果
・考察
3.双極子モーメント制御によるチタニアナノシートの高機能化
・緒言
・材料と方法
・結果
・考察
4.結論
<5>骨組織再建・感染予防のためのハードバイオマテリアル
1.はじめに
2.代表的な骨組織再建用ハードバイオマテリアル
3.骨組織再建用ハードバイオマテリアルの課題-細菌感染-
4.チタン表面への抗菌性付与
5.抗菌性炭酸アパタイト
6.おわりに
<6>3次元積層造形による金属バイオマテリアルの高機能化
1.はじめに
2.L-PBFを用いた軽元素添加チタン基生体材料開発
・炭素添加β型チタン合金
・酸素添加α′型チタン合金
3.おわりに
<7>生物由来材料の医療応用
1.はじめに
2.脱細胞化組織の調製
3.脱細胞組織の特性の評価方法
4.脱細胞組織の応用
5.おわりに
<8>人工臓器とバイオマテリアルの未来
1.はじめに
2.現行の人工臓器・バイオマテリアルの問題点
3.DU人工臓器・バイオマテリアル開発の設計指針について
・現状について
・in situ tissue regenerationとDUと脱細胞化組織
4.脱細胞化生体組織研究から得られた知見から導かれる指導原理について
5.人工臓器とバイオマテリアルの未来
6.おわりに
【第3編:化学・生物を基盤とする創薬科学】
<1>mRNA医薬・ワクチンの作製から臨床応用まで
1.mRNA医薬・ワクチンとはどのようなものか
2.効果的なmRNA医薬・ワクチンを作製するにはどのような点に注意が必要か
3.mRNA医薬・ワクチンをどのようにして体内の細胞に送達するか
4.mRNA医薬・ワクチンはどのような疾患の治療や予防に使われるか
5.mRNA医薬の課題を解決するための新技術
<2>核酸高次構造に対する分子標的創薬
1.はじめに
2.グアニン四重鎖
・グアニン四重鎖の構造的特徴
・グアニン四重鎖の創薬標的としての可能性
3.特定のG4のみを認識/誘起するG4リガンド
4.抗腫瘍効果を示すG4リガンド
・TMPyP4
・CX-3543(Quarfloxin),CX-5461(Pidnarulex)
・S2T1-6OTD
・Y2H2-6M(4)OTDとケージド化
・CM03,SOP1812(QN-302)
5.最後に
<3>ゲノム編集分野におけるケミカルバイオロジー
1.はじめに
2.ゲノム編集技術の変遷
3.ケミカルツールを用いたゲノム編集活性の制御
4.光化学によりプログラムできるゲノム編集・遺伝子制御
5.ゲノム編集のための効率的なタンパク質送達手法の開発
6.EpiEffectorsを用いたDNAやタンパク質の修飾によるエピゲノム編集
7.開発が加速している次世代ゲノム編集ツール
8.Anti-CRISPRを用いたCasヌクレアーゼ活性制御
9.まとめと今後の展望
<4>核内受容体の医薬化学-新たな構造を追求した低分子創薬研究-
1.はじめに
2.核内受容体の構造と機能
3.レチノイド核内受容体とレチノイドの創薬研究
4.カルボキシル基の代替構造:新しい生物学的等価性基
5.新たな疎水性ファーマコフォアの探索
・ケイ素の特性を活用した構造展開
・カルボランをコア構造として用いた核内受容体リガンドの創製
・六配位フッ化硫黄構造を用いた構造展開
6.おわりに
<5>タンパク質分解薬
1.はじめに
2.標的タンパク質分解薬PROTAC
3.cIAP1を利用した低分子PROTACの創製
4.標的タンパク質選択的な分解薬の創製とIAPパンアンタゴニスト利用による分解活性向上
5.動物モデルで有効性を示す低分子PROTACの報告
6.神経変性タンパク質を分解する低分子PROTACの創製
7.脳内移行性を示す神経変性タンパク質分解薬の創製
8.おわりに
<6>リン酸化ペプチドおよびその等価体と創薬
1.はじめに
2.Polo-like kinase 1
3.Plk1 PBD結合性ペプチドの発見と高親和性リン酸化ペプチドの開発
4.Plk1 PBD高親和性ペプチドPLH*SpTの誘導体展開
・環状PLH*SpT誘導体の開発
・二価型阻害剤
5.おわりに
<7>新規創薬標的探索のための光親和性標識プローブの開発
1.光親和性標識法
・光親和性標識法に利用される光反応性官能基
・クリック反応による検出用官能基の導入
2.ジアジドプローブ法
3.ジアジドビルディングブロックの簡便合成
4.ジアジドビルディングブロックを用いた分子連結手法の開発
<8>光機能分子
1.はじめに
2.蛍光物質と蛍光センサー
3.光分解性保護基とCaged化合物
4.光増感剤と光線力学療法
5.おわりに
■監修■
三林 浩二
東京科学大学 [旧TMDU]
影近 弘之
東京科学大学 [旧TMDU]
岸田 晶夫
東京科学大学 [旧TMDU]