■ポイント■
・持続可能な発展と脱炭素社会の実現に必要不可欠なパワーエレクトロニクス技術!
・軟磁性材料の開発や受動素子技術、シミュレーション技術について解説!
・車載用パワーエレクトロニクスの技術動向についても詳述!
■概要■
2023年5月、新型コロナウィルス感染症の5類感染症移行に伴い、ようやくコロナ禍が治まり光明が見えてきた。しかしながら、いまだに終息の兆しが見えないウクライナ侵攻や中東での紛争など、国際政治の不安定さが日に日に増してきている感がある。このような状況におかれていても、地球温暖化防止対策のための脱炭素社会の実現は人類にとってまさに「待った無し」の課題であり、我々は迅速に何らかの手を打たなくてはならない。そのために、例えばガソリン車から電動自動車への転換(xEV化)や再生可能エネルギーの利用促進、さらにはデータセンタ向けサーバ電源の低消費電力化の実現は大いに期待されるところである。たとえばこれらxEV分野や太陽光インバータ、さらにはサーバ電源に高性能パワーエレクトロニクス装置が搭載されれば、無排気ガスや低消費電力特性の実現が可能となり、社会に与えるインパクトは極めて大きい。今後も電気エネルギー依存度はますます上昇し、将来的にも電力がエネルギーの中核をなすのは間違いのない中、国連サミットで採択されたSustainable Development Goals(SDGs)の達成に向け、また我々の明日の社会が持続可能な発展を遂げるためには、この電力エネルギーを効率よく利用することが必須であり、それを支える最も大きな技術のひとつがパワーエレクトロニクスである。
本書『パワーエレクトロニクス技術の進展-脱炭素社会への貢献と期待-』では、パワー半導体デバイスや回路技術の総論に続き、磁性材料や受動素子技術に焦点を当てさらにパワーエレクトロニクスを支えるシミュレーション技術についても多くのページを割いて編集された。また今後パワーエレクトロニクス適用分野としてその中心になるであろう、車載用パワーエレクトロニクス技術についても、多くの専門の先生がその最新の技術を詳しく解説しており、幅広い内容を網羅することができた。脱炭素社会を目指した高効率電力利用社会の本格的な実現に向けて、パワーエレクトロニクス技術の浸透を一層加速させるために、本書が役立つことを期待したい。
【第Ⅰ編 総論】
＜1＞パワーエレクトロニクス技術とパワー半導体の役割
1．はじめに
2．パワーデバイスの主役:MOSFETとIGBT
3．最新シリコンMOSFET技術
・低耐圧MOSFET
・高耐圧MOSFET
4．最新シリコンIGBTならびにモジュール技術
5．SiC．MOSFETの最新技術
6．SiC．MOSFET最新モジュール技術
7．まとめ
＜2＞パワーエレクトロニクスの最新動向
1．研究開発に関する動向
2．応用先に関する動向
＜3＞給配電システムに適用が拡大するパワーエレクトロニクス技術
1．はじめに
2．次世代パワー半導体素子
3．高圧回路技術
・モジュラーマルチレベル変換器
・Solid-State．Transformer
4．系統連系インバータ
・系統電圧上昇対策
・余剰電力対策
・事故時運転継続機能
・GFLインバータとGFMインバータ
・疑似慣性
・GFMインバータの課題
5．まとめ
＜4＞最新パワー半導体モジュールのトレンドと性能進化の方向性
1．はじめに
2．パワー半導体素子技術
3．パワー半導体モジュールのパッケージ技術
・素子接合技術
・ワイヤー配線技術およびダイレクトリードボンディング技術
・放熱技術
・封止技術
4．最新パワー半導体モジュール製品の例
5．まとめ
【第Ⅱ編 軟磁性材料開発と磁気特性】
＜5＞高周波大電力用軟磁性材料と評価技術
1．はじめに
2．パワエレ磁気
・高周波パワエレ磁気の現状
・高周波パワエレ磁気不在の要因
3．パワエレの磁性材料
4．パワエレ磁気デバイスとパワエレの影響
・パワエレ磁気デバイス
・パワエレの磁気特性への影響
5．磁気計測
6．おわりに
＜6＞圧粉磁心用純鉄粉 〜低鉄損化のための製造プロセスおよび粉体特性の適正化〜
1．圧粉磁心の鉄損
2．圧粉磁心の製造工程
3．圧粉磁心の鉄損に及ぼす原料鉄粉粉体特性の影響
・粒子形状の影響
・粒子径の影響
・純度の影響
4．低鉄損圧粉磁心と電磁鋼板の鉄損の比較
＜7＞複合配向化した軟磁性微粒子コンポジット材の静的・動的磁気特性
1．はじめに
2．実験方法
3．実験結果および考察
4．まとめ
＜8＞高電力密度DC-DCコンバータのための磁気統合技術
1．はじめに
2．マルチポート回路
3．トランス・磁気結合リアクトル統合磁気素子
4．統合と冗長性
5．フィルタビルトイン回路
6．結論
＜9＞高周波向け軟磁性材料の磁気特性の測定・評価方法
1．はじめに
2．磁気特性評価の背景
3．軟磁性材の磁気特性評価
4．試料形状や歪と磁気特性
5．直流バイアスと磁気特性
6．高周波での磁気特性測定時の注意点
・共振現象に注意
・パワーアンプの最大出力に注意
・発熱に注意
・巻線に注意
・周囲で発生する渦電流に注意
【第Ⅲ編 受動素子】
＜10＞パワーエレクトロニクス機器におけるEMCの概論
1．はじめに
2．パワーエレクトロニクス機器におけるEMC
3．電磁ノイズの発生要因となるパワーデバイスのスイッチング
4．電磁ノイズに影響する寄生インダクタンスと寄生容量
・寄生インダクタンス
・寄生容量
5．サージ電圧とリンギング
・サージ電圧やリンギングの発生メカニズム
・サージ電圧・リンギングの対策方法
6．モータから漏洩するコモンモード電流
・コモンモードの等価回路
・コモンモード電流の対策方法
7．まとめ
＜11＞パワーコンバータ用磁気デバイスの高電力密度化・高性能化へ向けた要素技術
1．はじめに
2．パワーコンバータ用磁気デバイスの応用技術
・高放熱化に向けた要素技術
・磁気部品の統合化と磁性材料特性に着目した特性改善
3．おわりに
＜12＞高周波パワーコンバータと受動素子
1 はじめに
2．共振形コンバータ
・増幅器のクラス分け
・整流回路
・高周波コンバータの実現
3．高周波コンバータの実装例
・スイッチングデバイス
・磁性素子
・コンデンサの選定
・実装写真と実験波形
4．まとめ
＜13＞パワーエレクトロニクス回路用キャパシタの評価技術
1．はじめに
2．キャパシタの損失推定
・矩形波電流流入時の電解コンデンサ損失の推定
・カロリー法を用いたフィルムキャパシタ損失測定
3．キャパシタのコンディションモニタリング
・モータ駆動用インバータの回路構成とキャパシタ等価回路
・電解コンデンサ寿命の直流バイアス電圧依存性
・ESRとキャパシタンスの分離抽出
・電流センサレス・コンディションモニタリング
・モニタリング手法のブロック図
・モニタリング実験結果
4．おわりに
＜14＞パワーコンバータ用フィルムコンデンサ
1．はじめに
2．フィルムコンデンサの基本構造
・構造
・SHコンデンサにおける蒸着パターンとヒューズ動作による保安性
3．小型化
・エネルギー密度と電位傾度
・xEV用フィルムコンデンサの小型化の技術変遷
4．フィルムコンデンサの電力損失
・交流電流による損失と等価直列抵抗
・直流電流による損失
5．フィルムコンデンサの製品寿命
・寿命の考え方と加速性
・SHコンデンサの蒸着パターンによる長寿命化の取り組み
6．耐熱性
7．おわりに
＜15＞パワーエレクトロニクス分野で用いられる積層セラミックコンデンサ(MLCC)用誘電体材料の方向性
1．パワーエレクトロニクス分野のトレンド
・エレクトロニクス分野の拡大
・MLCCに求められる特性
2．MLCC用誘電体材料の方向性
・温度補償用MLCC向け誘電体材料
・高誘電率系MLCC向け誘電体材料
3．まとめ
【第Ⅳ編 モデリングとシミュレーション技術】
＜16＞パワーエレクトロニクスシステムにおけるシミュレーションの役割
1．はじめに
2．システムシミュレーション
3．システムシミュレーションのためのモデルと
バリアフリーシミュレーション技術
4．まとめ
＜17＞電動航空機におけるシステムシミュレーション技術
1．はじめに
2．構築する電動航空機のモデル概要
3．電動航空機駆動用インバータモデル
4．電動航空機モデルの挙動モデルとその評価
5．電動航空機モデルにおけるパワー半導体性能評価
6．まとめ
＜18＞寄生磁界結合を考慮したEMCフィルタシミュレーション
1．寄生磁界結合を考慮したEMCフィルタシミュレーション
・主要な寄生磁界結合のモデリング手法
・寄生磁界結合抽出を目的としたフィルタ構成部品のモデリング手法
・寄生磁界結合を考慮したEMCフィルタシミュレーションの実機検証
・EMCフィルタシミュレーションを用いた実製品におけるノイズ低減事例
【第Ⅴ編 車載用パワーエレクトロニクス】
＜19＞自動車用パワーエレクトロニクスの現状と動向
1．はじめに
2．バッテリ電圧とインバータの動向
・バッテリの高速充電と高電圧化
・高電圧化によるSiC-MOSFET利用
・BEVのインバータに用いられるパワーデバイス
3．DC/DCコンバータ・車載充電器の動向
・DC/DCコンバータ
・車載充電器
・双方向車載充電器
4．自動車用パワーエレクトロニクスの展開
＜20＞車載用パワー半導体の技術動向
1．はじめに
2．車載用パワー半導体の分類
3．シリコンパワーMOSFET
・低耐圧パワーMOSFET
・高耐圧パワーMOSFET
・パワー IC
4．シリコンIGBT
5．新材料パワー半導体
・SiC MOSFET
＜21＞e-Mobilityインバータ生産における最新技術動向
1．はじめに
2．INV生産工程の概要
・ライン構成と自動化推移
3．接合技術の変革
・はんだ付け工法
・レーザ接合技術
＜22＞電気自動車向けパワーエレクトロニクス回路の設計
1．電気自動車向けパワーエレクトロニクス回路の構成
2．モータとバッテリの仕様から回路の概要設計
3．昇圧チョッパ回路の設計
・時間関連パラメータ決定
・回路パラメータの決定
・電流変動の評価
4．インバータ回路の設計
・駆動方式・信号
・回路ハードの設計とスイッチング素子の選定
5．回路シミュレーションによる評価
6．まとめ
■監修■
岩室 憲幸
筑波大学
