■ポイント■
・非侵襲にその場で評価できることから注目される生体ガス計測による疾病スクリーニング!
・生体ガスによる医療診断および健康応用について、最新の研究内容とその将来展望をまとめた1冊!
・呼気・皮膚ガスによる疾病・代謝診断および疾病スクリーニングや、センシング技術の動向について詳述!
■概要■
癌の探知犬が世界的に注目され、多くの研究者が生体ガスの計測に取り組んでいる。呼気や皮膚ガスなどの生体ガスを計測し、疾病スクリーニングを行う利点としては「被験者に苦痛を与えることなく、その場で評価できる」、「ガス計測であることから、高度な医療機器も必要としない」、「計測技術の向上により超早期の診断も期待される」等が挙げられる。しかし生体ガス分析の研究は世界的に行われているが、残念ながら探知犬が認識しているであろう「バイオマーカー成分」はあまり明確になっていない。もちろん「癌」に限らず、糖尿病やリウマチ、フェニルケトン尿症、魚臭症候群などの病気でも、また健康時の代謝状態においても、特異的な揮発性成分(ガス)が発生しており、その発生メカニズムも幾つか報告されている。そして実際に、生体ガス計測による医療診断やそのための新たな開発も行われている。
例えば、「NOによる喘息診断」「尿素呼気試験によるピロリ検査」「アセトンによる脂肪代謝」「メチルメルカプタンによる病的な口臭診断」等が挙げられ、その有効性が広く認識されている。
本書では、生体ガスによる医療診断および健康応用を念頭に、第Ⅰ編では「呼気ならびに皮膚ガスの医療研究動向」に関して、呼気・皮膚ガスによる疾病・代謝診断および疾病スクリーニングについて、また第Ⅱ編では「生体ガス計測のためのセンシング技術」に関して、呼気や皮膚ガスを対象としたセンシング技術の動向を、第Ⅲ編では「生体ガス計測の応用展開」に関して多様な今後の可能性について、本領域で活躍されている研究者の方に、現在の研究内容とその将来展開をご紹介いただいている。本書が科学技術を通して、人の健康や将来の医療を考える方々へ有益な情報として提供できれば幸いである。
【第Ⅰ編 呼気ならびに皮膚ガスの医療研究動向】
<1>脂質代謝評価のための呼気および皮膚ガス中アセトン計測
1.はじめに
2.アセトンガス計測用バイオスニファの作製と呼気ガス計測
3.皮膚ガス中のアセトンガス計測
4.まとめ
<2>呼気診断による口臭治療
1.はじめに
2.口臭原因物質と生成機序
3.口臭の測定法
4.口臭症の国際分類
5.診断と治療
6.おわりに
<3>PATM(私に対するアレルギー)患者の皮膚ガス組成を解明
1.はじめに
2.PATMの成立条件
3.試験方法
4.皮膚ガス組成の特徴
5.体臭に寄与する皮膚ガス成分
6.室内濃度指針値との比較
7.PATMの発症原因
8.おわりに
<4>呼気を使った治療薬物モニタリング(TDM)
1.TDMの意義
2.血液に代わる体液としての呼気
3.呼気の本質
4.呼気試料採取方法
5.呼気によるTDMの可能性
6.終わりに
<5>がんのニオイ発生の機序解明とがんニオイセンサー開発の必要性
1.がん発生理由の概略
2.発がん機序解明の歴史
3.がんの罹患率
4.がんの増殖スピード
5.がん検診受診率
6.既存のがん検診の目的と条件
7.腫瘍マーカー検査
8.リキッドバイオプシー検査
9.疾病とニオイの関係についての歴史
10.がん探知犬研究の始まり
11.がん探知犬マリーンとの出会いとがんのニオイ存在の証明
12.がんのニオイの濃度の推定
13.がん探知犬検査の宿命
14.想定されるがんのニオイが発生する機序
15.がんのニオイを特定するための検体の選択
16.がんのニオイ物質特定のための培養細胞での分析
17.がんのニオイ候補物質に関する臨床応用の検討
18.がんのニオイセンサーが必要となる近未来の社会背景
19.がんニオイセンサー開発の目標
<6>がん探知犬
1.はじめに
2.がん探知犬の歴史
3.本研究グループによる2種類のがん探知犬の訓練
4.がんが発するにおい物質
5.がん探知犬の課題と今後の展望
<7>線虫の嗅覚を活用したがん検査N-NOSE
1.がん検査の現状
2.がんと匂い
3.生物を用いたがんの検出
4.線虫の特徴
5.線虫の嗅覚
6.線虫によるがんの検出
7.N-NOSEの臨床試験
8.第三者によるN-NOSEの再現
9.N-NOSEの実用化
10.がん種特定線虫の開発
11.すい臓がん特定線虫の開発に成功
12.ペット用N-NOSEの開発とサービス
13.N-NOSEの今後の展望
【第Ⅱ編 生体ガス計測のためのセンシング技術】
<1>昆虫細胞センサを用いた高感度においセンサ
1.はじめに
2.昆虫の嗅覚受容体を発現させた「センサ細胞」
3.センサ細胞の種類と特徴
4.センサ細胞アレイの蛍光パターンによる農作物のカビ臭成分の応答測定
5.おわりに
<2>単一の化学物質を検知する匂いセンサと
複合臭を検知する人工嗅覚システムの開発
1.はじめに
2.嗅覚
3.SPR免疫センサ
4.マルチアレイ人工嗅覚システム
5.展望
<3>MSS嗅覚センサの総合的研究開発と生体ガス計測への応用
1.はじめに
2.MSSについて
3.感応膜について
4.機械学習との融合
5.産学官連携
6.生体ガス計測
7.おわりに
<4>水晶振動子を用いた呼気アンモニアの測定と
非侵襲的病気診断への応用
1.緒言
2.水晶発振子の原理
3.検知膜の作製および検知システム
4.検知感度および選択性
5.シリカナノ粒子を用いた多孔性検知膜の作製と呼気分析
6.湿度およびアンモニアに対する応答特性の評価
7.呼気アンモニアの測定
8.臨床現場での応用と課題
9.おわりに
<5>匂いの可視化システム
1.はじめに
2.匂い計測の定義と可視化システムの概要
3.プラズモニックガスセンサと匂い可視化フィルム
4.二次元プラズモニックガスセンサによる匂いの可視化
5.おわりに
<6>マイクロ流体デバイス技術を利用したバイオハイブリッド匂いセンサ
1.はじめに
2.匂いの溶解促進技術
3.匂いの方向検出技術
4.おわりに
<7>固体電解質を用いた電気化学式センサによる
揮発性有機化合物の高感度検知
1.はじめに
2.安定化ジルコニアを用いた固体電解質センサ
3.金属酸化物を添加したAu検知極を用いた
固体電解質センサのトルエン応答
4.おわりに
<8>呼気センサーの開発とストレス・疲労検知への応用
1.はじめに
2.呼気センサー開発の背景
3.新しいアンモニア検知材料CuBr
4.高感度・高選択なセンサーデバイス
5.手軽で迅速な呼気センサーシステム
6.呼気中アンモニア濃度のサンプリング測定
7.おわりに
<9>呼気・皮膚ガスのためのリアルタイム動画像化システム
1.はじめに
2.NAD依存性脱水素酵素を用いたVOCイメージングの原理
3.バイオ蛍光法に基づくVOCイメージングの実例
4.エレクトロスピニング技術に基づくセンシングメッシュ開発の試み
5.むすび
【第Ⅲ編 生体ガス計測の応用展開】
<1>呼気センシングによる個人認証
1.はじめに
2.皮膚ガスセンシングによる個人認証
3.GC-MS成分分析による呼気ガス個人認証
4.センサアレイによる呼気ガス個人認証
5.呼気ガス個人認証の実用化に向けた課題と取り組み
6.おわりに
<2>腸内細菌が作る水素ガスの驚きの働き
1.はじめに
2.生体内へのH2供給の方法
3.大腸発酵由来H2量とその生成持続性
4.五臓六腑を巡る大腸発酵由来H2
5.大腸発酵由来H2による生体内酸化ストレス軽減
6.腸内細菌叢による大腸発酵由来H2量の制御
7.最後に
<3>ヒト嗅覚受容体センサを用いた全ての匂いをデジタルデータ化する匂い情報DXの実現
1.はじめに
2.ヒト嗅覚受容体センサのための技術的背景
3.ヒト嗅覚受容体センサの開発へ
4.ヒト嗅覚受容体センサ技術の匂い情報DXへの展開
5.今後のヒト嗅覚受容体センサ
6.次世代のヒト嗅覚受容体センサ候補
7.おわりに
<4>生体ガス計測によるデジタルヘルスケア
1.はじめに
2.生体ガス検知技術とヘルスケア応用に必要な濃度レベル
3.生体ガス計測用の検知器
4.デジタル技術と融合したマルチガスセンサ
5.社会実装に向けたデジタル化の課題:感染症の危機管理の応用例から
6.おわりに
<5>酵素修飾特殊構造CNFフィルムセンサによる皮膚(アルコール)ガス計測
1.はじめ
2.計測技術
3.酵素電極反応による信号変換
4.酵素修飾特殊構造CNFフィルムセンサ
5.皮膚(手首)からのアルコールガスのリアルタイム測定
6.おわりに
<6>生体ガス計測のための酵素を用いた多様なガスセンサ
(魚臭症候群:トリメチルアミン、口臭:メチルメルカプタン、腸内細菌生成:メタノール、加齢臭:ノネナール、等)
1.はじめに
2.魚臭成分:トリメチルアミンの代謝酵素によるバイオ式ガスセンシング
3.口臭成分メチルメルカプタンのバイオセンシング
4.アルコール脱水素酵素の逆反応(還元)を用いたアセトアルデヒドガス計測
5.カスケード酵素反応によるメタノールガスの高感度ガス計測
6.加齢臭ノネナールのバイオ蛍光ガスセンシング
7.おわりに
<7>GC-MS-Oを用いた男性特有の頭皮臭ミドル脂臭の原因成分「ジアセチル」の解明とその抑制技術
1.はじめに
2.体臭の特徴
3.40〜50歳代男性の頭皮臭「ミドル脂臭」の原因成分ジアセチルの解析
4.おわりに
<8>身体の変化(加齢)による加齢臭・心理の変化(緊張ストレス)によるストレス臭
1.はじめに
2.身体の変化(加齢)による加齢臭と対応
3.心理の変化(緊張ストレス)によるストレス臭
4.最後に
<9>呼気アセトン濃度測定による脂肪燃焼評価の有用性
1.はじめに
2.古くから研究されてきた「脂肪燃焼評価」
3.呼気アセトン濃度分析による脂肪燃焼評価
4.体型・体組成と呼気アセトン濃度の関係
5.呼気アセトンによる脂肪燃焼評価の今後の展望と課題
6.おわりに
■監修■
三林 浩二
東京医科歯科大学