【米国エネルギー革命2050シリーズ第12回】
米国で急進するマイクログリッドと日本の針路〜「コマーシャルマイクログリッド」と「広域マイクログリッド」〜
クリーンエネルギー研究所 代表
阪口 幸雄(さかぐち ゆきお) 氏
米国では1月20日にバイデン政権が誕生し、新政権の目玉政策であるクリーンエネルギーへの転換が始まった。これに伴い、2035年までの発電セクターにおける脱炭素化と、2050年のパリ協定遵守に向かって全セクターでの化石燃料使用の停止が本格化する。
バイデン政権のプランに関わらず、米国の電力業界は、集中型システムから分散型・双方向型のシステムへとシフトしつつあるが、インフラの老朽化、大規模自然災害の頻発、再生可能エネルギー発電の増加等が原因で、停電が起きやすくなっている。同時に、新しい技術、再生可能エネルギー統合にかかる価格の低下、規制の変化によって、エネルギー(電力)を作り、送り、配り、貯め、管理・共有し、使う選択肢と自由度が増えてきている。
これらの変革の最中にある米国の電力業界において、「エネルギーの地産地消」、「ビジネス中断リスクの低減」、「地域レジリエンシー強化」、「分散電源統合」、「社会インフラ再構築」に関わるソリューションの一つが「マイクログリッド」である。停電が起きた場合に電力グリッドから「分離」でき、サバイブできる機能が、マイクログリッドと他の分散型ソリューションの大きな違いであり原動力となっている。そのほか、エネルギーコストの安定、温室効果ガス排出量の削減、電力会社(配電事業者)から見て切り離しが容易といったメリットも大きい。
マイクログリッドと言っても、「単一需要家向けのコマーシャルマイクログリッド」と「広域自律型マイクログリッド」に分かれるが、本セミナーでは、両方の特徴を詳しくみていく。
また、マイクログリッドコントロールシステムの進化、標準規格の制定、HIL(Hardware-In-the-Loop)を用いたテスト手法の進化、法規改正機運(カリフォルニア州のSB1339)、相変わらず多い自然災害と停電、等が後押しとなり、今後10年で両者が車輪の両輪のように進むと考えられる。また、技術革新や増える災害が後押ししているだけではなく、経済性の向上が大きな要因になっている。
近年日本でも「広域マイクログリッド」が話題になることが多いが、先行する米国での例を参考に、どこにビジネスチャンスがあるのか、「第三者所有モデル」や「電力会社所有モデル」は成り立つのか等を多方面から解析し、日本はどう取り組むべきかを考える。
1.「マイクログリッド」とは何か
(1)様々な定義 (2)頻発する自然災害がマイクログリッド化を推進 (3)州政府や電力会社の関与が大事
(4)法制の課題と整備(カリフォルニア州のSB1339で「Over-the-wall規制」の改革)
(5)第三者やCCA(Community Choice Aggregation)や電力会社所有モデル (6)化石燃料ベースと再エネベース
2.「コマーシャルマイクログリッド」
(1)件数では圧倒的に多い (2)経済性とレジリエンシーが大事 (3)デベロッパー3社で70%以上を占める
3.「広域マイクログリッド」
(1)フィーダー線をまたがり複数需要家をカバー (2)送電線リスクが高い遠隔地へのNon-Wired-Alternativeを実現
(3)集合住宅でのレジリエンシーと経済性を実現 (4)大規模な都市再開発の一環
(5)スマートシティ実現への第一歩
4.マイクログリッドコントローラ
(1)三階層のコントローラの詳細と役割 (2)ディスパッチとトランジション (3)進化・複雑化するコントローラの機能
5.マイクログリッド向けインバーター
(1)グリッドフォーミングインバータ (2)グリッドフォローイングインバータ (3)複数インバーターのドループ制御
6.マイクログリッドの標準化規格
(1)コントローラの規格 (2)コントローラの検査規格 (3)DCマイクログリッド規格
(4)米軍のマイクログリッド規格
7.マイクログリッドの検査に用いられるHILテスト
(1)HIL(Hardware in the Loop)テストとは何か (2)コントローラのテスト(C-HIL)
(3)電力系のテスト(P-HIL) (4)実例
8.マイクログリッドの具体例
(1)広域マイクログリッド : ブロンズビル(イリノイ州)・レッドウッド空港(カリフォルニア州)
(2)コマーシャルマイクログリッド : ビール工場(ハワイ)・シングルマザー向けシェルター(ハワイ)
9.マイクログリッドの経済性
10.日本のビジネスチャンスを考える
シリコンバレー在住の著名コンサルタント。米国のクリーンエネルギーと、日本のビジネスへの影響にフォーカスしたコンサルタント会社の代表をつとめる。シリコンバレーを中心に、エネルギー問題の定点観測を長期間行い、今後の動向と日本企業の対応についてのきわめて明解なビジョンを持つ。専門分野は、エネルギー貯蔵、発送電分離、デマンドレスポンス、分散電源、太陽光発電、水素発電、電気自動車、等。
日本の大手エネルギー企業、日本政府機関、大学等のアドバイザーを多数務める。
シリコンバレーに30年以上在住。日立(日本と米国)にて17年間最先端の半導体の開発に携わったあと、そのビジネス経験や物性の知識を活用すべくエネルギー分野に。
ホームページhttp://www.technology4terra.org
「日経エネルギーNext」に「シリコンバレー発、電力Biz」を連載中
https://tech.nikkeibp.co.jp/dm/atcl/feature/15/112900154/113000002/
※近著:【「脱炭素化」はとまらない! -カリフォルニアとハワイの場合-】
https://www.amazon.co.jp/dp/4425985214